<傑作「火車」の原型がここにある>この作品は、宮部みゆきがブレイクしたあの「火車」の1年前に書かれた作品です。これ、再読のような。困ったことに、全く覚えていない(笑)。しかし、改めてお気に入りの作家さんを読み直してみると、傑作は書かれるべくして、書かれたと思うんですね。そんな傑作が書かれる前夜の短編集です。
失恋からコンピュータ犯罪の片棒を担ぐにいたる微妙な女性心理の動きを描く表題作。『火車』の原型ともいえる「裏切らないで」。切なくあたたかい「ドルシネアにようこそ」など6編を収録。日々の生活と幻想が交錯する東京。街と人の姿を鮮やかに描き、爽やかでハートウォーミングな読後感を残す。宮部みゆきワールドを確立し、その魅力の全てが凝縮された山本賞受賞前夜の作品集。【BOOKデータベースより】
どの作品にも、大ブレイク作「火車」の、兆しがあります。
表題作は「返事はいらない」は、失恋の挙句、自殺まで考えた主人公がある老人と出会い、元彼の勤めている銀行に復讐を企てるというもの。キャッシュカードの仕組みがかかれており、へぇーと思いましたが、今はこの仕組みも使われていないんでしょうね。当時、ここまで調べて完全犯罪に仕上げた腕はお見事。感心の作品です。
「ドルシネアにようこそ」…この作品集での一番好きです。駅の掲示板にいたずらに書いた伝言。ある日、それに応えてくれた人が。ひょんなことで「ドルシネア」に行くことになったが、その真相は。ラストがとっても爽やかで、気持ちのいい作品です。しかし、クレジットカードで買い物をする女性など出てきて、これまた、「火車」を連想させます。主人公の地道な努力に涙。
「言わずにおいて」…ある夜。川べりを歩いていた女性が車の男性に「やっと、見つけた」と叫ばれ、車は横転。運転手は死亡してしまう。その真相とは。
「私はついていない」…結婚前の従姉妹から、借金でなくした婚約指輪の代わりに、泣く泣く母の結婚指輪を代わりに使うことに。あろうことか、その指輪も、籠抜け詐欺で取られてしまう。指輪を取り戻すため、必死に探す主人公だが。この作品もラストの切れがいいんです。従姉妹が競馬で50万円使ったというところも、いろんな意味で今の社会への警鐘ですね。
洋服や、競馬や収入に見合った生活ができない、東京という都会。作者はこんな風に書いています。「地方から見れば、夢が実り富が待ち華やかな暮らしが約束されている東京があるのだろう。…東京は無限に金を与えてくれる。楽しみを与えてくれる。決して裏切らないような顔をして」
宮部さんは、この作品を書いたとき、そんな風に社会や都会を見ていたんですね。東京生まれの宮部さんらしいなーとも思いました。だからこそ「ドルシネアにようこそ」に出てくる主人公に対して、温かいんです。
その他にも二編。宮部さんの作品は、決して古く感じませんねー。どの作品も今の社会も映しています。というか、その当時から見た将来への警鐘なんでしょうね。
しかし、そこには救いもあるんです。地道にまじめに頑張っている姿を応援しています。とても、いい作品集です。
次の宮部みゆきは、いよいよ「火車」の再読にします。楽しみです。